Stories日本の美をつくる
01織物
伝統を今に伝える
織物壁紙の技術[小嶋織物、エリモ工業]
茶栽培も盛んに行われてきた木津川地域。
上狛には福寿園をはじめ今も茶問屋が軒を連ねています。
糸デザインから一貫生産する
『粗さ』を生かした織物壁紙
そんな木津川地域に薄織物の技術が根付いたのは、江戸時代のこと。中国の呉から奈良へ伝わった蚊帳づくりの技術が木津川経由で地域に広がり、以来、木綿や麻の薄織物を使ったふすま紙づくりが盛んに行われるようになったと言います。
織物工場の特徴とも言える、のこぎり屋根。
糸や生地の色確認に不可欠な自然光を取り込みます。
そう語るのは、織物の産地・木津川地域で約90年の歴史を持つ「小嶋織物株式会社」代表取締役の小嶋一さん。織物壁紙、織物ふすま紙を製織から最終製品まで一貫生産している、国内でも数少ない製造メーカーのひとつです。
木津川地域の織物の歴史を語る、小嶋一さん。
織物・紙壁紙工業会の会長も務められています。
合糸工程では、様々な素材や色、オリジナルの糸を組み合わせ、
新しい表情の糸をつくり出します。
このように1本ずつ糸をカスタマイズし、その個性を生かしながら製織していくことで、お客様が求めているテクスチャーに合わせて織物壁紙をつくり出すことができるのです」
「天然の植物繊維が原材料ですから、埋め立てをしたときは分解して土に戻ります。焼却をしてもダイオキシンや有毒ガスが発生しません。そのため、非常に地球環境にやさしい壁紙だと言うことができます。一方、天然素材でできているということは、『呼吸をして生きている』ということ。吸湿性、調湿性に優れているため、室内のホルムアルデヒドやVOC(揮発性有機化合物)を吸着します。また、結露やカビの発生を緩和する効果もあります。ただ、現代的な高機密の部屋で織物壁紙を使用すると、生活の中で発生する蒸気や湿気の影響を受け過ぎてしまう可能性も。その点には、少しだけ注意が必要かもしれません」
検反機を使いながら、製織された生地を確認。
同時に不要物を取り除いたり、補修したりします。
「3年前、地域で『山城織物協同組合』という組織をつくったのですが、今残っているのはそのうちの5社程度。そのうち壁紙を製造しているのは3社で、織物壁紙を糸から一貫生産しているのは弊社を残すだけになっています。その意味では、木津川地域は純粋な意味での『織物の産地』ではなくなってしまっている状況です。この土地に再び織物の文化を根付かせるためにも、まずは木津川の人たちに織物の産地であることを認識してもらうのが大切だと考えます」
小嶋さんとリリカラのアートディレクター・波多野。
今後の製品のあり方について議論を重ねます。
「デザイナーさんや一般のお客様が私たち作り手と出会い、『この工場の製品なら、使ってみたい』と実感してもらえるような場所をつくりたい。そのためにも、まずは組合としていろんな地域イベントに参加して織物壁紙の魅力を発信し、ファンを地域から構築していけたらと考えています」
プリント加工技術×天然素材で、
五感に訴える壁紙を追求する
経糸用の糸巻き工程。
さまざまな製糸工場から譲り受けた木管を
一つひとつ大切に使用している。
「弊社のプリントは、『ロール捺染』という銅を腐食させる凹版の手法を使うもの。銅メッキを施したプリントロールを腐食させて凹版の柄をつくり、捺染機で水性顔料を塗布して、人の手で圧力を調整しながら素材となる壁紙に色をのせていきます。この技術を使うことで、凸凹のテクスチャーを持った壁紙に対しても独自のプリントを行うことができるのです」
経糸をビームに巻きつける整経工程では、
まずクリールスタンドに原糸をかけて準備を行います。
ロール捺染を終えた後の金属凹版。
表面の銅メッキ部分には、細かな模様が掘り込まれています。
「例えば、インドネシアで織ってもらったバナナ繊維の織物やフィリピンで漉いてもらった紙、そのほかタイやベトナムなどの国からもさまざまな天然の生地素材を輸入しています。さまざまな仕入れ先とつながりながら、一方で刺繍やエンボス、転写などの外注加工先とも提携する。そうすることで、『天然素材が持つテクスチャーの生地に、アルミ箔を転写させる』というような複雑な加工が可能になっていきます。また、その上から水性顔料をプリントして色を組み合わせていくことで、表現の幅をさらに広げていくこともできるのです」
フィリピンで製造されている手漉き紙。
あえて手作業で行うことで、独自の素材感を生み出します。
「例えば織物壁紙の場合、テクスチャーに個性があったら目に楽しいし、ちょっと触りたくなります。そして手に触れたら、その壁紙にしかないザラザラとした音を感じます。もちろん天然素材ですから、素材それぞれの香りもするでしょう。また、経糸や緯糸、そのほかの素材を感じながら、ひとつの作品として味わうこともできる。つまり、壁紙というのは『五感を心地良く刺激してくれるもの』なのです。そのような可能性があるものをつくっているからこそ、『今、ちゃんと人の五感に訴えかけるような壁紙づくりが行えているのか』ということを、常に自分の胸に問いかけるようにしています」
「だからこそ、それぞれの作業工程の中に自分たちなりのレシピを用意して、素材の状態に合わせて調整を行っていく必要がある。当然、その分だけ手間はかかりますが、製品として理想のものができた瞬間は、やはりうれしさが込み上げてきます」
「1%ということは、約600万平米の市場があるということ。これが2%になっただけで、1200万平米。たった1%で、インパクトのある数字を生み出します。しかも、天然素材製品の魅力や品質の高さをもっと伝えていくことができれば、それは高すぎるハードルではないと考えます」
中村さんとリリカラ・波多野。
久しぶりの工場見学を終え、
壁紙のアイデアについて語り合いました。
「自分たちが勉強して得たものを、社会に還元していく。そのような『貢献』の姿勢こそが、仕事というものの大前提です。だからこそ、目の前の作業一つひとつに知恵を使って、心をこめていく。そういうモノづくりを、これからも続けていきたいと思っています」