多くの企業で出社傾向が強まり、オフィスで顔を合わせる機会が増えても、「組織の一体感が薄い」という課題は依然として残っています。その背景には、「自分はこの組織の一員だ」と実感できる帰属意識の不足があります。
帰属意識とは、企業の理念やビジョンへの共感を基盤とした心理的つながりで、日々の交流や環境の中で育まれるものです。だからこそ、オフィスは単なる作業場ではなく、社員同士が自然に関わり合い、組織とのつながりを感じられる大切な場となります。
本コラムでは、オフィスを通して帰属意識を高め、社員が「ここで働きたい」と思える環境づくりのポイントを紹介します。
目次
帰属意識とは?企業で注目される背景
ここでは、社員が働くうえでなぜ重要なのかを整理します。
あわせて、働く環境やオフィス空間が帰属意識の形成にどのように関わるのかをひも解きながら、社員にとっての“心地よい居場所”をつくるヒントを探っていきましょう。 さらに、帰属意識の向上が企業や社員にもたらすメリットにも触れ、理解を深めていきます。
帰属意識の意味
帰属意識とは、社員が「自分はこの組織の一員だ」と実感し、企業の理念や価値観に共感している状態を指します。単なる所属ではなく、組織との“心のつながり”をどれだけ感じられるかが重要です。この意識が高まると、仕事への前向きな姿勢や仲間との信頼関係が育まれ、チームとしての力も発揮されやすくなります。
なぜ今、企業で重視されているのか
働き方が多様化し、転職も特別なことではなくなった今、社員が組織にどれだけ「つながり」を感じられるかは、業績への貢献度だけにとどまりません。採用力の向上や人材の定着、さらには企業文化の成熟にまで影響が及ぶ指標へと変化しています。 こうした背景から、多くの企業が改めて帰属意識の価値に目を向け、組織づくりの中核として位置づけるようになってきました。
帰属意識を高める3つのメリットーオフィス空間がもたらす好影響とは
帰属意識の向上によって得られる、具体的なメリットを3つ紹介します。
離職を防ぐ組織づくりにつながる
社員が組織に対して帰属意識を持つようになると、「この会社で働き続けたい」という気持ちが自然と芽生えます。自分の役割に誇りを持ち、安心して働ける関係性が築かれることで、日々の意欲が安定していくためです。
とくに、信頼関係が育まれた職場では、意見の違いを恐れずに発言できる心理的安全性が高まり、社員は孤立を感じにくくなります。そうした環境が整えば、組織の一員としてのつながりをより深く実感できるようになるでしょう。

こうした前向きな職場環境は、結果として転職を考える要因を減らし、離職率の低下にも寄与します。
オフィスづくりのポイント
オフィスにおいては、自然に会話が生まれる動線や、集中と交流を切り替えられる空間など、レイアウトを工夫することで、安心して働ける“自分の居場所”が生まれ、帰属意識も育ちやすくなります。その積み重ねが、社員が長く働きたいと思える組織づくりへとつながっていきます。
働きやすさが高まり、生産性が向上する
社員が自身の役割を理解し、組織に貢献している手応えを得られるようになると、業務への取り組み方そのものが変わります。業務の優先判断が的確になり、主体的に動ける場面が増えることで、仕事のスピードや質に好影響をもたらすようになるからです。こうした姿勢が広がることで、職場ではお互いの得意分野を理解し合い、役割を分担しやすくなります。その結果、チーム全体としてより高い成果が期待できるようになります。
オフィスづくりのポイント
オフィスにおいては、業務に合わせて思考や作業を切り替えられるABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の考え方を取り入れることで、社員が力を発揮しやすい状態を生み出します。たとえば、集中が必要なタスクには静かな専用スペース、議論が必要な場面では気軽に集まれるエリアというように、目的に応じて最適な場を選べる設計が、業務効率を大きく左右します。
帰属意識がもたらす主体性と、オフィス環境が支える働きやすさ。この相互作用こそが、組織の生産性を底上げする原動力となるのです。
企業イメージ・ブランド形成に貢献する
社員が自社に愛着を持つようになると、企業への見方や関わり方が前向きに変化していきます。日々の仕事で得た良い経験を、家族や友人、取引先との会話の中で自然と語るようになり、組織の魅力が社外へ広がっていくためです。
こうしたポジティブな発信は、企業イメージの醸成に欠かせない要素です。良い評判が積み重なることで、信頼や親しみが生まれ、採用面や顧客からの評価にも好影響を与えます。
オフィスづくりのポイント
オフィスのデザインも企業の印象を左右する大切なポイントです。理念を反映した色使いや、開放感のあるレイアウトは、来訪者に“その企業らしさ”を直感的に伝える役割を果たします。社員にとっても、ブランドを象徴する空間で働くことが誇りとなり、社内外への発信力がいっそう高まります。このように、帰属意識とオフィス環境は企業イメージを高める相乗効果を生み出し、ブランド価値の向上へとつながっていくのです。
エンゲージメントとは?帰属意識との違いを整理
働き方の価値観が多様化し、社員の働きやすさや組織とのつながり方が重視されるなかで、近年あらためて注目されているのが「エンゲージメント」という概念です。しかし、「帰属意識」との違いが分かりにくいと感じる方も少なくありません。
この章では、まずエンゲージメントの本来の意味と、帰属意識との関係を丁寧に整理することで、組織づくりやオフィス設計にどのように役立つのかを明らかにしていきます。
エンゲージメントとは
本来“結びつき”を指す言葉で、ビジネスでは企業と社員の間に築かれる信頼関係を意味します。とくに「従業員エンゲージメント」は、組織の成長を支える重要な基盤です。これが高まると貢献意欲や愛着が育ち、定着率や生産性の向上にもつながります。チームの活性化やモチベーション向上といった効果も期待でき、企業にとって欠かせない要素といえます。
帰属意識との違いと補完関係
エンゲージメントと帰属意識は、どちらも会社と社員との「関係」「つながり」を示す言葉ですが、焦点となる軸は異なります。エンゲージメントは「この組織に貢献したい」という前向きな意欲を指すのに対し、帰属意識は「この組織の一員でいたい」と感じる情緒的なつながりです。いわば、前へ進む力を生むのがエンゲージメント、安心してとどまれる感覚を支えるのが帰属意識といえます。
どちらか片方だけでは長期的な活躍にはつながりにくく、両者がそろってはじめて、社員は安定した力を発揮しやすくなります。たとえば、貢献意欲が高くても孤立感があれば意欲は続きませんし、安心感があっても働く意味を見失えば成果は生まれにくくなります。
そのため、エンゲージメントと帰属意識は互いを補い合い、組織文化やパフォーマンスを支える“セット”として捉えることが重要です。
エンゲージメントの価値
帰属意識が「その組織に所属し、受け入れられている」という安心感を示すのに対し、エンゲージメントは「組織に対する積極的な関与や貢献意欲」を示しています。帰属意識が“土台”だとすれば、エンゲージメントは“行動の原動力”。現代では、この主体的・能動的な価値観こそ重要視されるようになっています。
たとえば、多くの企業が抱える課題である「優秀な人材の離職防止」においても、エンゲージメントの向上は重要な鍵となります。仕事への意欲が高まり、力を発揮しやすい環境で働けるほど、社員は「この組織で働き続けたい」という理由を見つけやすくなるためです。
さらに、従業員エンゲージメントの高い企業ほど業績が向上するという調査結果も発表されています。エンゲージメントは“人事領域の言葉”ではなく、企業成長を左右する経営課題として位置づけられているのです。
参考:「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果を公開|モチベーションエンジニアリング研究所
帰属意識が「気持ち悪い」「いらない」といわれる理由
帰属意識という言葉に、「気持ち悪い」「いらない」などと抵抗感を示す人が一定数いるのは事実です。理由としては、「組織への過度な同調を求められるのではないか」という懸念があると考えられます。
しかし働き方が多様化し、個々の価値観を尊重する流れが強まった現代では、「無理に一体感をつくる」取り組みが逆効果になることもあります。形式的なチームビルディングや、社員の本音が置き去りになったスローガンだけの施策は、かえって疎外感を深めやすいものです。
本来の帰属意識は“強制”ではなく、自然に「ここで働くのが心地よい」と感じられる状態を指します。誤った捉え方が拒否反応を生んでいるにすぎず、適切な環境づくりがその印象を大きく変えていきます。個人の価値観や多様性、ワークライフバランスが重要視されがちですが、「安心して居られる場所」という意味での帰属意識は、現代人にとって必要な心理的欲求ではないでしょうか。
帰属意識を高めるオフィスの特徴とは?
社員が「ここで働きたい」と感じられる職場には、共通する空間設計があります。自然な会話が生まれる動線や、創造性を引き出す環境、五感に配慮した快適性、そして企業らしさが伝わるデザイン。帰属意識は日々の体験から育まれるからこそ、オフィスづくりが大きな役割を担います。この章では、組織が活性化し帰属意識が高まるオフィスの仕掛けをご紹介します。
オフィス内にコミュニケーションを促すスペースを設ける
オフィス内に社員同士が声をかけやすいスペースを設けることは、帰属意識を高める大きな効果があります。自然な会話が生まれやすくなり、「この会社の一員である」という感覚を得やすくなるためです。
たとえば誰でも利用できるカフェスペースやランチスペース、休憩エリアなどが代表的な例ですが、単に場所を用意するだけでは十分に活用されないこともあります。そこで有効なのが、“使いたくなる仕掛け”を加えることです。

ザルトリウス・ジャパン株式会社様の施工事例では、「エンゲージメント・カウンター(交流の場)」にコーヒードリッパーを設置し、自然発生的な会話を促す工夫が凝らされました。オフィスでは40秒以上同じ場所に留まると会話が生まれやすいというデータがあり、ドリップにかかる数分の時間が交流のきっかけになるという仕組みです。
こうしたスペースでは、「ある程度自由に会話してよい」というルールを明確にすることで、社員が気兼ねなく利用しやすくなります。日常的な交流を生む動線設計こそ、帰属意識向上に直結するポイントといえるでしょう。
アイデアを生み出せる創造的な環境づくり
社員が自らアイデアを出し合い、組み合わせ、磨き上げていける環境は、モチベーションを高めるうえでも重要です。創造性は個々の能力だけで生まれるものではなく、場のつくり方によって大きく左右されます。
まず効果的なのが、ホワイトボードや、アイデアを共有できるデジタルツールの設置です。またキャスター付きの家具など、臨機応変に配置や形を変えられるものはアジャイルミーティングとの相性が良く、議論の流れを止めません。


フレームとビームで構成されたセミオープンな空間はブレストに最適です。中でしている会話が外にもほどよく伝わり、通りがかった社員が自然に会話へ加わりやすいというメリットがあります。ほかにもハイカウンターなど、目線の高さを変えられる席を取り入れることで、視点が変わり、新しい発想が生まれるきっかけにもなります。

さらに、ステップベンチを取り入れた会議も効果的です。ロの字型の会議では、互いの視線が気になり意見が出にくいことがありますが、段差ステージで全員が同じ方向を向くレイアウトにすると、発言のハードルが下がり、議論が活性化しやすくなります。
創造的な環境とは、特別な演出ではなく、「会話が生まれやすい」「視点が変わる」「巻き込みが起きる」といった小さな仕掛けの積み重ねです。オフィスの設計次第で、日常の業務から生まれるアイデアの質は大きく変わります。
快適かつ五感を刺激するオフィス
帰属意識を高めるうえで、社員が心地よく働ける環境づくりは欠かせません。適切な温度や湿度を維持する空調システムを導入するのはもちろん、自然光を取り入れやすいレイアウトや、長時間作業しても疲れにくいデスク・チェアの選定など、基本的な快適性が整っていることが前提となります。
さらに、光や音、香り(アロマ)といった五感を刺激するアイテムを取り入れることで、集中力や創造性を高める効果があり、働く体験そのものを豊かにしてくれます。
また、オフィスの床面積に占める家具占有率もポイントです。床面積に対する家具占有率が50%を超えると、空間が窮屈に感じられる傾向があります。最近のトレンドでは、占有率を40%前後抑えるオフィスが増えています。過度に物を詰め込まず、「個人の働き方」に合わせたゆとりを確保することが、心地よいオフィスの実現につながります。
インナーブランディングによる企業と社員の価値観の共有
働き方が再びオフィス中心に戻りつつある今、インナーブランディングの重要性はこれまで以上に高まっています。企業文化やビジョンを社内へ丁寧に伝え、価値観を共有することがその目的です。
社員が自社の存在価値や強みを理解すると、自信とロイヤリティが育まれ、日々のモチベーション向上にもつながります。さらに自社への信頼感が高まることでやりがいや達成感を得やすくなり、結果として帰属意識の向上、離職率の低下、優秀な人材の確保にも寄与します。
インナーブランディングは言葉だけでは浸透しません。オフィス空間で“体験”として表現することで、社員が自然と自社らしさを感じ取れるようになります。
空間そのものが企業のアイデンティティを語り、社員が日常的に“自分たちのブランド”を感じられる環境が、強い組織文化を育てます。


自社スローガンを掲げた壁面
<インナーブランディングの表現方法>
- 自社製品をモチーフにしたオリジナル家具やサイン
- ロゴマークを取り入れた空間デザイン
- 自社の歴史を語るヒストリーウォール
- デジタルサイネージで拠点・現場とつながる仕組み
帰属意識を高めるオフィス事例
ここでは、リリカラがこれまで手がけてきたオフィスの中から、帰属意識の向上に寄与した事例を厳選して紹介します。空間設計の工夫がどのように社員のつながりや働きやすさを高めているのか、そのポイントを実例をもとに見ていきましょう。
チームをつなぐ“公園”モチーフのリフレッシュスペース




チーム連携と社員の健康に配慮し、「公園」をモチーフにしたフリースペースを設けています。木の温もりを感じるナチュラルな家具や、芝生と石畳をイメージしたカーペットなど、公園ならではのリラックス感・リフレッシュ効果のある空間は、チームのつながりを深め、作業効率や生産性の向上にもつながることが期待できます。
また、社員を対象に実施した“勤務中の不調”に関するアンケートでは、「目が疲れる」「運動不足と感じる」といった声が多く挙がりました。そこで、目に優しいグリーンを積極的に取り入れるとともに、気軽に体を動かせるスペースを設置。目の疲労や運動不足の解消をサポートする休憩スペースとしてデザインしています。
こだわり抜いた意匠性が息づく、気持ちを高めるオフィス




人を引きつけ、社員が最大限に力を発揮できるオフィスをめざして、意匠性を追求したデザイン事例です。エントランスの天井は高級感のある黒を採用し、受付正面に配置したシルバーの壁は、職人が手作業で丁寧に塗り上げています。さらに天井にはディフューザーを設置し、アロマの香りで来訪者を迎え入れるなど、目に見えない細部にまでこだわりを注いだ空間に仕上げました。
ワークスペースは、広い動線による開放感が特徴で、デスクは一人あたり“幅2,000mm”というゆとりのあるサイズを確保。加えて、仕事の合間に気分転換ができるリフレッシュエリアも設けています。ハイカウンターやテーブル席、ソファー席など多様な家具を採用したことで、社員がそれぞれ自分に合ったスタイルで働くことができ、満足度の高い空間となっています。
コーポレートカラーを基調とした、社内外のブランディングに寄与するオフィス



コーポレートカラーであるオレンジをキーカラーとして取り入れ、会社への帰属意識を高める内装デザインを取り入れた事例です。受付や各会議室には、「自由に飛び回るロケット」をイメージしたTELASAのロゴの「A」をデザイン。企業ビジョンを空間に落とし込むことで、帰属意識やエンゲージメントを自然と引き上げる仕掛けになっています。
オフィスを訪れた来客からは、「会社のフレッシュさや勢い、ワクワク感が伝わってくる」と好評です。社員からも「出社すると会社の風土を実感でき、モチベーションが高まる」「チームの団結力が強まった気がする」といった声が寄せられています。オフィスそのものが、社内外のブランド価値を高める役割を果たしています。
まとめ|社員が「行きたい!」と思えるオフィスづくりが鍵
オフィスへの出社が増えている今、帰属意識のあり方があらためて見直されています。
社員が「自分はこの組織の一員だ」と実感し、企業の理念や価値観に共感している状態は、働くうえでの安心感を支えるだけでなく、業績向上や作業効率、人材確保にも直結する重要な要素です。
快適で五感を刺激するオフィス、アイデアが生まれやすい環境、自然なコミュニケーションを促すといった工夫を積み重ねることで、社員が「行きたい!」と思えるオフィスへと近づき、帰属意識の向上にもつながります。
リリカラは「はたらくをもっとゆたかに」をコンセプトに、企業課題に寄り添ったワークスペースづくりを支援しています。トップインタビューや部門ヒアリング、各種分析調査から空間構築まで、上流工程から伴走することが可能です。限られたスペースでもリフレッシュ効果を生む工夫をご提案できますので、ぜひ気軽にご相談ください。
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