多様な働き方が求められる中、注目される「フリーアドレス」。フリーアドレスはスペースの有効活用やコミュニケーションの促進など多くのメリットがある一方で、運用に失敗して「使いにくい制度」と感じる企業も少なくありません。
本コラムでは、フリーアドレスの基本から、ありがちな失敗例、そして導入を成功に導く11のポイントまで、実例を交えながらわかりやすく解説します。導入を検討中の方も、すでに取り入れて課題を感じている方も、ぜひ参考にしてください。

オフィスのフリーアドレス化を成功に導く4つのステップをまとめたフリアド導入ガイドブックです。
目次
フリーアドレスとは?
「フリーアドレス」とは、社員が固定の席を持たず、その日の業務内容や気分に応じて自由に座席を選んで働くオフィススタイルのことを指します。従来のように部署ごとに席が決まっている「固定席」とは異なり、部署をまたいだ偶発的なコミュニケーションの促進や、オフィスの省スペース化にもつながるとして、多くの企業が導入を進めています。
一方で、「自由に席を選べる=ルールがない」という誤解や、「フリーアドレスにすればリモートワークは不要」といった誤った認識も少なくありません。またすべての企業や職種に適しているわけではなく、導入には自社の業務や文化に合った設計と運用ルールが必要不可欠です。
オフィスのフリーアドレス化を成功に導く4つのステップ|フリーアドレスの進め方
フリーアドレスを導入するメリットとは?
フリーアドレスは「働きにくい」「生産性が下がる」といった声もありますが、運用次第で大きなメリットを生む仕組みです。この章では、その誤解と実際の利点について解説します。
社内コミュニケーションの強化
フリーアドレスの大きなメリットのひとつが、社内コミュニケーションの活性化です。固定席の場合、日常的に関わるのは同じ部署やチームのメンバーに限られがちですが、フリーアドレスでは座席を自由に選べるため、部署を越えた交流が生まれやすくなります。
こうした偶発的な交流は、組織全体の風通しを良くし、業務への理解が深まったりといった成長のきっかけになります。
仕事の生産性向上
フリーアドレスは、業務効率の向上も期待できます。社員が自由に働く場所を選べるため、その日の仕事内容や集中度合いに合わせて最適な環境を選択できます。例えば、静かなスペースで集中して資料作成を進めたり、対話が必要なプロジェクトではチームメンバーと近い席に集まることも可能です。
また、フリーアドレス導入に伴いIT環境や情報共有ツールが整備されるケースが多く、場所にとらわれないスムーズな仕事の進め方が実現します。さらに、社員同士の交流が増えることで、問題解決が迅速になったり、業務の効率化につながるアイデアが生まれやすくなるでしょう。
組織変更のしやすさの向上
フリーアドレスの導入は、チーム編成や人事異動にも影響をもたらします。固定席の場合、チームの再編成や異動が発生すると席替えや配置変更が必要になり、業務の一時的な混乱を招きやすいです。しかし、フリーアドレスならば、社員が自由に席を選べるため、組織変更に伴う物理的な席の調整が不要になります。
これにより、人事異動のタイミングでのオフィス運営コストや準備時間を大幅に削減でき、スムーズに組織変更できます。
オフィス空間の運用効率が高まる
フリーアドレスの導入は、オフィススペースの有効活用にも大きく貢献します。固定席を採用した従来のレイアウトでは、在席率に関わらず社員一人ひとりにデスクを用意する必要があり、実際には使われていない席が多数存在するという非効率な状態が生まれがちです。特にテレワークや外出が多い職種では、常に席が空いている状態が常態化し、スペースの無駄につながります。
フリーアドレスを取り入れることで、座席数を実際の出社率に応じて柔軟に調整でき、余剰スペースを最小限に抑えることが可能になります。
オフィス関連コストの最小化
フリーアドレスの導入は、オフィスの賃料や備品にかかるコスト削減にも効果を発揮します。固定席のオフィスでは、社員全員分のデスクやチェアを確保しなければならず、結果的に広いスペースと多くの備品が必要となります。しかし、フリーアドレスを導入すれば、出社率に応じた適正な座席数の設定が可能になり、オフィス全体の床面積を縮小することができます。それにより、毎月の賃料を抑えることができるだけでなく、不要なデスクや収納棚などの備品も減らせるため、初期投資や維持費の削減にもつながります。
オフィス空間の清潔感向上
フリーアドレスの導入は、オフィスやデスク周りの美化にもつながります。固定席では、個人の私物や書類が積み重なり、デスク上が雑然としがちです。一方で、フリーアドレスでは日々異なる席を使うため、原則として「デスクに物を残さない」というルールが定着しやすくなります。これにより、常にすっきりと整った状態が保たれ、オフィス全体の印象も清潔でスマートになります。
フリーアドレス導入でつまずく原因とは?よくある失敗8選
フリーアドレスは柔軟な働き方を実現する一方で、導入に失敗する企業も少なくありません。今回は、よくある失敗の原因を10項目に整理してご紹介します。
導入の意図が不明確な状態で始める
フリーアドレスは、コミュニケーションの促進や業務効率の向上、スペースの有効活用など、明確な目的があってこそ効果を発揮します。そのため「流行しているから」「他社がやっているから」といった理由で導入すると、働き方に合わず混乱を招くことがあります。
目的があいまいだとルールも不明確になり、席探しや資料の管理が煩雑になって生産性が下がる恐れもあります。また、社員の納得を得られず、不満が生まれることも。導入を成功させるには、目的を明確にし、業務内容や社員の声に合った運用ルールを整えることが大切です。
ルールやツールなしで導入する
システムや運用ルールを設けずにフリーアドレスを導入すると、現場での混乱を招きやすく、失敗の原因になります。たとえば、毎日座席を確保するのが早い者勝ちになり、ストレスや不満が生じることがあります。また、座席予約システムや在席表示の仕組みがなければ、社員の居場所が分からず、チーム内の連携や業務効率にも悪影響を及ぼします。フリーアドレスを成功させるには、働き方に合ったルールづくりやシステムの整備が不可欠です。
コミュニケーション活性化の対策を講じない
フリーアドレスでは、メンバー同士が離れて座ることが増え、自然な対話や情報共有が難しくなる場合があります。その結果、連携不足や誤解が生まれやすくなり、チームの一体感や業務効率が低下することがあります。特にコミュニケーションを活性化する目的で導入した場合、この問題が顕著に表れることもあるため、座席配置の工夫やコミュニケーション促進の仕組みづくりが重要です。
集中環境の配慮が欠けている
フリーアドレスは社員同士が自由に席を選び、近くにいる人と気軽に話せる環境を作ることが多いですが、その結果、仕事に集中しづらくなり雑談が増えてしまう場合があります。特に仕事の区切りや集中時間の確保が難しくなると、生産性が下がるリスクがあります。このため、適切なルール設定や集中エリアの確保など、バランスの取れた環境づくりが重要です。
人材育成を支える仕組が構築されていない
固定席がなくなることで、先輩や上司と気軽に相談しづらくなったり、OJTが受けにくくなる場合があります。また、社員同士の自然なコミュニケーションや観察機会が減ると、成長のためのフィードバックや指導が不足しやすくなります。こうした環境が続くと、人材育成に悪影響を及ぼす可能性があるため、導入時には教育面での工夫やサポート体制を整えることが重要です。
書類の管理体制が整っていない
固定席がなくなることで、個人のデスクに書類を置きっぱなしにできず、整理や保管が難しくなるためです。これにより、必要な資料がすぐに見つからなかったり、紛失や情報漏えいのリスクが高まったりする場合があります。書類管理が煩雑になると業務効率が下がり、フリーアドレスのメリットを損なう可能性があるため、導入時にはデジタル化の推進や共有スペースの整備などの対策が重要です。
荷物の持ち運び負担軽減策が講じられていない
フリーアドレスではめ、PCや書類、私物などを毎日持ち運ぶ必要があり、社員にとって負担になることがあります。特に収納スペースが不足している場合や、ロッカーの位置が不便な場合には、日々の移動がストレスになりやすく、業務効率や満足度の低下につながる可能性があります。こうした問題を防ぐには、持ち運びを前提とした軽量な業務環境の整備や、使いやすい個人ロッカーやワゴンの導入など、物理的な負担を軽減する工夫が必要です。
フリーアドレスの適性が低い部署にも適用している
フリーアドレスはコミュニケーション促進やスペース活用に有効ですが、すべての部署に適しているわけではありません。集中力を要する設計や開発、機密業務の部署では、席が固定されないことで業務効率が下がる場合があります。また、多くの設備や資料を使う部署では、席を変えるたびに環境が整わず作業がしづらくなることもあります。こうした部署に無理に導入すると、社員の不満や業務の混乱を招き、失敗につながることが多いです。成功させるには、部署ごとの業務内容や働き方を分析し、適した運用方法を検討することが重要です。場合によっては一部部署で固定席を残すなど、柔軟な対応も必要です。
フリーアドレスに適した会社と適していない会社の特徴
フリーアドレスは、すべての企業にとって万能な働き方とは限りません。オフィスの在り方や働き方が多様化する中で、その効果を最大限に活かせる企業と、慎重な見極めが求められる企業とがあります。ここでは、それぞれの企業の特徴をご紹介します。
フリーアドレスに適した会社や業種 | フリーアドレスに適さない会社や業種 |
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・業務にパソコンとネット環境があればどこでも仕事ができる業種 ・出社人数が日によって変わる会社 ・プロジェクト単位でチームが流動的に動く会社 ・自律性や成果を重視する文化を持つ会社 ・コミュニケーションを重視する会社 | ・機密性の高い情報を扱う会社 ・チームの連携・隣接が業務効率に直結する会社 ・紙の書類を多く扱い資料が手元に必要な職種 ・電話応対や来客対応が頻繁で、同じ席に常駐する必要がある職種 |
このように、フリーアドレスが機能するかどうかは、業種や業務スタイルだけでなく、組織文化や働き方の柔軟性など、さまざまな要素によって左右されます。
そのため、全面的な導入が難しい場合には、部署ごとにエリアを分けるゾーニング制や、出社頻度の低い部門だけを対象とする選択制、一部固定席を残すハイブリッド型の導入など、段階的・部分的な運用から始めることが効果的です。
フリーアドレスをうまく機能させるには?成功へのステップを解説
フリーアドレスは働き方改革の一環として注目されていますが、導入には準備と運用が欠かせません。ここでは、フリーアドレス導入を成功させるために押さえておきたい重要なポイントをご紹介します。
導入の狙いを明確にする
フリーアドレス導入を成功させるためには、まず導入の狙いを明確にすることが欠かせません。目的があいまいなままだと、運用ルールや社内の合意形成が進まず、社員の混乱や不満を招く恐れがあります。例えば、コミュニケーションの活性化や業務効率の向上、オフィススペースの有効活用など、具体的な目標を設定することで、効果的なルールづくりや環境整備が可能になります。
明確な狙いを共有することで、社員の理解や協力も得やすくなり、フリーアドレスのメリットを最大限に引き出せます。
運用ルールの明文化と周知徹底を行う
フリーアドレスをうまく運用するためには、ルールを明確にし、全員にしっかりと共有することが大切です。固定席がないことで、どの席を使っていいのか、荷物を置いて離席してもよいのかなど、さまざまな場面で迷いやトラブルが起きやすくなります。あらかじめ使い方のルールを定めておくことで、誰もが公平に席を利用でき、業務もスムーズに進みます。また、決まりごとがあることで社員も安心して働けるようになり、フリーアドレスという働き方が職場に定着しやすくなります。
在席状況を分析して必要な席数を算出する
在席率を正確に把握せずに席数を決めると、席が不足して混雑したり、逆に無駄なスペースができたりしてしまいます。実際の社員の出勤状況や利用頻度をデータで分析することで、適切な席数を割り出せます。これにより、効率的なオフィス運用が可能になり、社員がスムーズに席を確保できる環境を整えられます。また、席数の過不足を防ぐことでコスト削減にもつながります。定期的に在席状況を見直し、変化に応じた席数調整を行うことも成功のポイントです。
フリーアドレスに合ったオフィス設計を行う
自由に席を選べる環境を整えるには、適切なレイアウトやゾーニングが必要です。例えば、集中できる静かなエリアやコミュニケーションを促進するオープンスペース、打ち合わせ用の小部屋など、多様な働き方に対応できる設計が求められます。こうした環境づくりにより、社員はその日の業務内容や気分に合わせて最適な場所を選びやすくなり、生産性や満足度の向上につながります。
ABWを取り入れる
ABWとは、仕事の内容や目的に応じて最適な場所や環境を選んで働くスタイルのことで、多様なワークスペースを用意することで社員の柔軟な働き方を支援します。これにより、集中作業やミーティング、リラックスなど、状況に合わせて環境を切り替えられ、生産性やコミュニケーションの向上につながります。フリーアドレスとABWを組み合わせることで、社員の多様な働き方に対応しやすくなり、導入効果を高めることが可能です。
部署や業務に応じて段階的に導入する
すべての部署で一斉に導入すると、業務の特性に合わず混乱が生じることがあります。そこで、まずはフリーアドレスに適した部署や業務から試験的に導入し、運用方法や課題を把握して改善を重ねることで、スムーズな全社展開が可能になります。
座席の流動性を高める工夫を行う
社員が同じ席に固定されず自由に移動できる環境を整えることで、コミュニケーションの活性化や情報共有が促進されます。具体的には、予約システムの活用や座席利用のルール設定が挙げられます。これにより、席の偏りや固定化を防ぎ、多様なメンバーとの交流が生まれやすくなり、フリーアドレスのメリットを最大限に引き出せます。
グループアドレスを導入する
最初から完全なフリーアドレスに挑戦するよりも、まずグループアドレスを導入してから段階的にフリーアドレス化を進めるほうが成功しやすい傾向があります。グループアドレスは、チームごとにまとまって座る仕組みなので、コミュニケーションや業務連携が取りやすく、社員も安心感を持って移行できます。これにより、社員の理解や協力を得やすく、運用上の課題も見つけやすいです。段階的に慣れていくことで、フリーアドレスのスムーズな導入と定着が期待できます。
社員の居場所がわかるツールを導入する
自由に席を選べる環境では、社員同士がどこにいるのか分かりづらくなることがあります。社員位置検索ツールを使うことで、リアルタイムで同僚の席や所在を確認でき、スムーズなコミュニケーションや迅速な連絡が可能になります。これにより、業務効率の低下を防ぎ、フリーアドレスの利便性を高めることができます。
私物の整理・移動を助けるツールを用意する
フリーアドレスでは席を固定せず自由に移動するため、私物や資料の管理が煩雑になりやすく、荷物の持ち運びが負担になることがあります。専用の収納ボックスやロッカー、モバイルツールなどを用意することで、社員が快適に席を移動でき、作業効率や満足度の向上につながります。
定期的に運用方法を振り返り改善する
導入後も社員の意見や運用状況を定期的に確認し、課題や改善点を把握することで、より使いやすい環境を作り上げていけます。これにより、運用のズレや不満を早期に解消し、社員の納得感や生産性の向上につながります。
成功例から学ぶ!フリーアドレス導入事例
ここでは、実際にリリカラがオフィスを手掛けた、フリーアドレスを導入した企業様をご紹介します。
首都高アソシエイト株式会社
首都高アソシエイト株式会社様は、部門間の交流促進と柔軟な働き方を実現するために、フリーアドレスを導入しました。オフィスには6人掛けのロングテーブルや3人掛けのテーブル、ファミレスブース、昇降デスクなど、様々な座席を複数設けることで、コミュニケーションの活性化や生産性の向上を目指しました。実際に社員間の会話が増えたり、帰宅時間が早くなるなどの効果がみられています。

首都高アソシエイト株式会社 | 若手メンバーを支援しつつ、 交流の広がるオフィスを構築
明治アニマルヘルス株式会社
明治アニマルヘルス株式会社様のオフィスでは、12種類の座席を用意し、社員がその日の業務内容や気分に応じて最適な場所を選べるようにしました。これにより、部門間の交流が促進され、柔軟な働き方が実現しました。
また、オープンな会議室やリフレッシュエリア、WEBブースなど、社員が快適に過ごせるスペースを新たに取り入れ、社内のエンゲージメント向上に寄与しました。特に、眺望を活かしたカフェエリアは、社員同士のカジュアルなコミュニケーションの場として好評を得ています。

明治アニマルヘルス株式会社 | 多様な働き方とワーカーの繋がりを支えるオープンなオフィス
エプソン販売株式会社
エプソン販売株式会社では、「出社したくなる自由で遊び心のあるオフィス」を目指してフリーアドレスを導入しました。約100名規模のフロアには、「集中」「交流」「リラックス」といった目的に応じた3つのエリアを設け、それぞれに最適な19種類の席を用意。カラーゾーニングによって各エリアの用途を視覚的に明確にし、空間全体に分かりやすさとデザイン性をもたらしました。大型の造作家具や立ち作業カウンターを取り入れることで、偶発的なコミュニケーションも生まれやすくしています。

エプソン販売株式会社 | 多彩な色と席で働く楽しさを追求した、アーバンライクなオフィス
まとめ
フリーアドレスは、企業の働き方やチームの特性に合わせて取り入れることができれば、今でも効果的に活用できるオフィススタイルです。ただし、導入時に目的が不明確であったり、運用の仕組みが整っていないと、かえって業務効率の低下や社員の不満を招くリスクもあります。
リリカラでは、企業の課題やニーズに合わせた空間づくりをトータルでサポートしています。フリーアドレス導入でお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

オフィスのフリーアドレス化を成功に導く4つのステップをまとめたフリアド導入ガイドブックです。